たくみなチャレンジ 演劇公社ライトマン『破産した男』

「演劇公社ライトマン」。まるで戦隊もののヒーローアクションでもやりそうな名前だけど、実体はまるで違う。難題とも思われそうな戯曲にチャレンジし、繊細かつ巧みな演出で、個性あふれる役者たちがなんとも言えない場を作りあげる。その「なんとも言えない」にあえて名前をつけるならば、「ライトマン的」という言葉でしかありえない。

結成15周年、第20回公演『破産した男』は、ふだん公演をおこなっている稽古場から外に出て、シアターZOOでの上演。脚本はフランスのダヴィド・レスコ。

けっしてわかりやすい内容ではない。いや、できごとだけ書けば簡単かもしれないが。破産した男がいる。妻が出ていく。破産管財人がやってきて家財道具を売る。男は未練があって妻のもとに行くが拒絶される。破産管財人がまたやって来て家財道具を売る。んー、つまるところこういう話だ。

男は、妻が出て行くさいに、トランクから本を1冊だけ返してもらう。その本を何度も、そうとう長く朗読する。あるいは、やってきた男に対して妻が、延々としゃべりつづける。破産管財人も、男の負債がいくらなのかを、こと細かに説明しつづける。いったいこの長い長いセリフはなんなのだろう。

それに、男が読みつづける本。もちろん男の現状と呼応するかのような内容なのだが、だけど、だからといって、それが、なんだというのだろう。

いっけん簡単なできごとのはずなのに、その奥底になにかがある、かもしれないし、ないかもしれない。いかにもライトマン的な題材、とでもいうべきか。そんな得体の知れない素材に対して、重堂元樹の演出は、いくつものたくみなチャレンジを繰り返す。ライトマンの面白さはここにある。繊細に素材を読み解き、舞台の上に仕掛けを用意する。そこに、クセのある役者が呼応して、不思議な場が生まれる。ライトマンならではの、ライトマンでしかなしえない瞬間だ。

僕が観た回の配役は、男に田村嘉規(重堂元樹とのWキャスト)。破産管財人に深浦佑太(「ディリバレーダイバーズ」。フレンチとのWキャスト)。男の妻に上總真奈(「ELEVEN NINES」)。

客演の深浦と上總は、過剰にならず押しつけがましくなく、淡々としていて、日本的な湿度を感じさせない。本作が、日本ではない、かといって海外でもないような不思議な舞台だったのは、ふたりに負うところが大きい。男を演じた田村は、独特の存在感を出す役者。不条理劇ともいえる本作の中に、違和感なく存在できるすごさ。

15周年、20回目の公演だった本作。観に行った初日初回は満員で、ライトマンに対する客の期待を強く感じた。僕も、期待しているひとりだ。

2019年6月29日(土)16時~17時30分 シアターZOO

text by 島崎町

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